香港をオフショア会社の拠点とする場合、銀行口座が必要なケースがあります。
オフショア会社設立後、直ちに法人口座を設定したいところですが、残念ながら口座開設プロセスが年々厳しくなってきていて、開設完了までに時間が掛かる若しくは開設まで取合ってもらえないケースが多いのが現状です。
その背景には、アンチ・マネロン及びカウンター・テロリスト・ファイナンス法(香港法第615章)の取締強化を受け、香港金融管理局が銀行に対してもKYC (Know Your Customer)規制を強化したことにあります。
香港金融管理局
http://www.hkma.gov.hk/eng/other-information/ac-opening/
本書では、香港法人口座開設のプロセスの流れ、要件、注意点及びノウハウについてご説明します。
香港での法人銀行口座開設プロセス
2018年5月現在、個々銀行により実務レベルでの違いはあるものの、香港での法人口座開設には以下のプロセスを踏むのが一般的です。
STEP 1 | 電話若しくはオンラインにて口座開設について問い合わせ |
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STEP 2 | 申請書類提出 (銀行によっては、申請書類提出と以下STEP4を同時に行う場合があります) |
STEP 3 | 銀行内での審査 |
STEP 4 | 取締役の来港インタビュー (事前アポイントが必要。混んでいてアポイントがとれず、その分遅延する場合があります) |
STEP 5 | 審査手数料・初期デポジットの支払い(STEP 4で求められるケースがあります) |
STEP 6 | 追加書類の提出・メールでの事実確認 |
STEP 7 | 結果通知 (口座詳細通知とオンラインバンキング設定やクレジットカード発行手続等のガイダンス) |
法人口座開設設定までに要する時間
銀行からは、最低でも1か月で、通常は2か月を要すると銀行からは説明がありますが、プロセス短縮の余地があります。その方法として、銀行と会社・取締役の信頼関係、知人の紹介(Reference Letter ・推薦状を提示)、今後のビジネス展開に銀行として期待がある(下記「ビジネスプラン」を参照)、数千万円超の当初の預金予定額(見せ金で小切手の提示を勧めるケースもあり、多ければ多いほど効果的です)などがあります。
取締役インタビュー
上記Step 4について、銀行との交渉余地はありますが、取締役が香港に来て銀行とのインタビューをするのが一般的な口座開設の条件です。インタビューの目的は、本人確認も兼ねていますが、主に直接取締役に会い、取締役の口からビジネスプラン(詳細は、下記参照)や今後の展望について英語・中国語にて伺うことです。所要時間は30分~1時間ほどです。
取締役の最低参加人数とインタビューの法的要件について後述します。
審査手数料・初期デポジット支払い
銀行により要件は様々ですが、一般的に手数料がHK$ 500~1,000くらいで、初期デポジットがHK$30,000~50,000くらいです。初期デポジットが口座開設後に最低限口座に維持する金額になります。未だオフィス会社の銀行口座を開設されていないので小切手を作成するのは矛盾していますが、現地従業員、知人、コンサルタントにご相談ください。
審査が下りなかった場合は、初期デポジットは返却されますが審査手数料が戻ってこないケースがあります。
事前に口座開設の銀行員に交渉して全額戻ってくるように交渉する必要があります。
ビジネスプランの内容について
銀行からは、ビジネスプランについて執拗く質問されますので、丁寧に説明する必要があります。以下が一般的に聞かれる項目ですので、可能か限り英語・中国語でパワーポイントで纏めると効果的です。
- ビジネス・業種
- 注意が必要なのは、オフショア機能の説明は控えあくまでも香港の事業を強調することです。
- また、当該ビジネスに許認可が必要な事業の場合(例:證券ライセンス)、証明書の提示が必要です。申請中の場合、その旨説明しますが、許認可取得が困難と銀行が判断した場合、審査に時間がかかります。
- 違法な事業・現規制環境下で問題視されるビジネスは取合ってもらえないケースがあります。
- 取引先について
- 収益予測
- 取引が行われる国・地域
- 取引先(交渉中・守秘義務の場合は、その旨を説明します)
- 株主・実質的支配者
- 株主構成を示すストラクチャー・チャート
- 親会社のビジネス概要・総資産、とオフショア会社ビジネスとの関係性
- 実質的支配者の説明。香港法上、実質的支配者は25%以上のオフショア会社の株式を直接的・間接的に保有する自然人ですが、上記25%のしきい値を10%に設定してKYCをする銀行もあります。尚、株主が上場会社で、その上場会社株式の10%以上を保有する株主が存在しない場合は、その旨説明します。
- 口座使途
- 目的
- 月単位の取引量・額
- 口座資金の出し入れ方法(例:小切手、現金、TT、投資・証券取引)
- 香港の経営体制
- 取締役(オンショアでも構いません)の経歴説明
- 香港の従業員数
- 組織図・内部管理体制(会計・法律の分野の外注化)
- 物理的なオフィス有無
提出書類例
銀行によって必要とされる書類は様々ですが、一般的に以下の書類の提出を求められます。
- 会社設立証明書 (Certificate of Incorporation)
- 営業登録証明書 (Business Registration) オフショア会社の住所証明にもなります。
- 年次報告書(NAR1)設立後まもない場合は、NNC1(当局に提出した設立申請書)を提示します。
- 定款(Article of Association)
- ビジネスプラン(前述)
- 取締役・実質的支配者のパスポートと住所証明
上記Step4のインタビューに参加できない場合、原本証明を提出(弁護士、公証人、公認会計士によるCertify True Copy)住所証明について、公共料金支払通知を英訳して提出しますが(翻訳証明付き)、日本人の場合、運転免許証の写しを(government issued IDとして)提出できるケースもあります。住所は、登録住所と一致する必要があります。
- オフィスのリース契約とフロアプラン
- 資産状況の確認の為親会社や取締役の銀行口座残高のコピー
- 口座開設に関する取締役議事録。
上記STEP4の際に取締役にサインを求める銀行もあります。
こちらから事前に全取締役サイン済みの議事録を提出が可能な場合があります。
単一取締役制度
2014年施行の新会社法(香港法第622章)により、取締役が1名にて会社説明が可能になりました(以下、「単一取締役会社」)。
単一取締役会社の場合、上記STEP4にある取締役インタビューについて、出席が必要な取締役は1名になります。その法的根拠として、定款にて、取締役1名により、取締役会決議ができることを提示する必要があります。よって、会社設立書類準備の段階から注意が必要です。
しかし、銀行によっては、単一取締役会社の株主・実質的支配者にも出席に同時に出席を迫れられるケースがありますので、慎重に交渉する必要があります。
上記記事に関するご質問などございましたら、お問い合わせください。