書いている私は香港の公認会計士として10年近くの経験があります。香港で、実際に会社を設立するプロセスはどのようなものなのでしょうか。どんなステップが必要で、事業を始めるまでどのような時間がかかるのでしょうか。あと、事業を迅速にはじめるためのシェルフカンパニーというものは何でしょうか。
香港に進出を検討している全ての方になるべくわかりやすく解説したいと思います。
香港の会社設立のステップ全行程
香港法人設立の7ステップは以下の通りです。
ステップ | 内容 | 必要日数 |
ステップ1 | 法人名の決定(類似商号の調査) | 3日 |
ステップ2 | 法人登記住所の決定 | 3日 |
ステップ3 | 定款・登記資料準備 | 2週間 |
ステップ4 | 会社登記所にて法人設立 | 5日 |
ステップ5 | 税務局にてBusiness registrationの取得 | 5日 |
ステップ6 | 銀行口座の開設 | 2週間 |
ステップ7 | 資本金払込と株式発行 | 1週間 |
すべて上手く進めば約2ヶ月ですべて終わることになります。以下、各ステップを説明していきたいと思います。
ステップ1:法人名の決定(類似商号の調査)
法人名は任意の名称を設定できますが、下記の点に留意が必要です。
- 法人名は①英語のみ②中国語のみ③英語と中国語併記の3パターンのいずれかで設定可能ですが、英単語と中国語単語を混ぜて名称として使用できません。
- Companies Registryに既に登録されている法人名は設定できません。
登録済の法人名については、https://www.icris.cr.gov.hk/csci/で確認可能です。 - 中国語については、①康熙字典もしくは②辭海字典に記載のある繁体字(香港で使用される中国語)であり、ISO10646の国際コードに登録されている単語でなければなりません。
- 会社条例で規定されている“trust”, “chamber of commerce” といった単語の使用については、Companies Registryの事前承認が必要になります。
- “too like“(よく使用される単語)については承認手続上では考慮されませんが、他の多数の申請者からの反対意見を基に、Companies Registryは法人名変更を指示することができます。
- 他社のトレードマークや法人名を連想させる名称は、権利侵害による訴訟リスクがあります
詳細につきましては会社設立証について書いた以下の記事を参考にしてください。
https://startuphk.jp/certificateofincorporation/
ステップ2:法人登記住所の決定
香港法人の登記には、登記住所が必要となりますが、会社設立証(Certificate of Incorporation)がないと、賃貸契約が出来ません。
つまり、会社設立証の取得には法人住所が必要なのですが、その住所取得のためには会社設立証が必要という矛盾した状況に陥ってしまいます。
そこで一般的には住所貸しのサービスを利用することになります。こちらのサービスは多くの会計事務所や会社秘書役代行業者が提供しています。実務的には、住所貸しサービスを利用し法人設立を行った上で、賃貸契約を締結し、その住所への変更を15日以内に会社登記所(Companies registry)、1ヶ月以内に税務局(Business Registration用)に届出をします。
ステップ3: 定款・登記資料準備
定款
法人独自の定款を作成することもできますが、起草と会社条例への準拠確認のために弁護士費用もかかるため、通常はCompanies (Model Articles) Notice (Cap. 622H)で提供されている、会社条例に準拠したモデル定款を適用することになります。
そこでは、主に以下の項目に関し規定されています(株式による有限責任会社)。
- 会社の名称
- 株式による有限責任会社であること
- 発行株式に関する事項
- 取締役と会社秘書役の権限に関する事項
- 取締役の任命と辞任に関する事項
- 取締役の免責に関する事項
- 株主の権利・株主総会に関する事項
- 配当に関する事項
- 株式と配当に関する事項
- 会計監査人に関する事項
登記資料準備
登記申請には、会社名・会社の登記住所・発起人・取締役・会社秘書役・株式の割当に関する書類が必要となるため、実務的にはこの時点で第一回の取締役会が開催されることになり、その決定事項を申請書類に記載します。
会社名、会社の登記住所 | 詳細は上記を参考にしてください。 |
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発起人・株式の割当 | 一般的に登記を代行する業者が発起人となり、必然的に最初の1株を所有します。 |
取締役 | Private Company(私的会社)の最低取締役数は1名です。上限の人数・国籍及び居住場所等の制限はありませんが、18歳以上の者(個人)を少なくとも1名選任する必要がある。
なお、代表取締役(Managing DirectorやPresident)の選任は任意ですが、定款に定められている必要があります。また香港では代表取締役という法的地位はないので、法人登記においては取締役としてのみの登記になります。 |
会社秘書役 | 香港では、取締役会・株主総会議事録の作成・保管といった様々な法定書類が適法かどうか確認し保管する会社秘書役という役職が会社条例により特別に規定されており、必ず選任を行わなければなりません。
香港の法律に通じた香港居住者または香港に設立された有限責任会社が会社秘書役となることができ、また取締役が兼任することも可能です。 |
会計監査人 | 香港では有限責任会社は全て会計監査を受けなければならず、必ず会計監査人を選任しなければなりません。
会計監査人は、通常、初年度は第一回取締役会で、2年目以降は各年次株主総会において選任されます。 |
その他 | 銀行口座開設、決算日、税務代理人等を第一回取締役会にて決議します。 |
ステップ4: 会社登記所にて法人設立
Companies Registry(会社登記所)に申請書類を提出し、登記料HKD1,720を納付します。有効な申請後4営業日以内に、香港法人として設立されたことを証明する会社設立証(Certification of Incorporation)が発行されます。詳細につきましては以下の関連記事(Certificate of Incorporation)をご参照下さい。
https://startuphk.jp/certificateofincorporation/
ステップ5: 税務局にてBusiness registrationの取得
Business Registration(別名:Company Registration)はInland Revenue Department(IRD―香港税務局)が所管する登録証になり、香港でビジネスを行う場合には、会社設立地、事業形態(法人、個人、パートナーシップ)に関わらず、業務開始の1ヶ月以内に申請し、毎年更新する必要があります。申請費用は登録料:HKD2,000と手数料HKD250の合計HKD2,250になります。詳細につきましては関連記事(Company Registration)をご参照下さい。
https://startuphk.jp/companyregistration/
ステップ6: 銀行口座の開設
香港法人を設立したら、資本金の払い込み等の事業活動を行うため、法人口座を開設しますが、特にここ数年ほどは法人口座の開設の難易度が上がっています。法人は設立できても銀行口座が開かずに事業が開始できないという方もいらっしゃるので留意が必要です。日本にて既に実績のある企業につきましては、実績・香港での取引の必要性を証明することで審査が通りやすくなるようです。
ステップ7: 資本金払込と株式発行
法人設立前は資本金の払込を必要としない(発起人は払込を行わない)ため、法人が設立された後の取締役会の決議に従って、発起人から譲渡を受けたもしくは新規に割り当てられた株式を株主が引き受け、払い込みを行います。資本金の払込期間には法定期限はありませんが、割当てられた資本金が全額払い込まれるまでは株券は発行されません。株券は会社秘書役によって発行されます。ちなみに最低資本金はHKD1になります。
香港会社設立を迅速に済ませる手段−シェルフカンパニー(Shelf Company)の活用
香港ではシェルフカンパニー(Shelf Company)と呼ばれる、既に箱としての法人が設立された状態のまま購入可能です。
これはすぐにでも法人を設立したいという設立者のニーズと予め時間のある時に法人設立業務をしておきたいという会計事務所や業者のニーズが合致した結果の実務です。シェルフとは棚を意味し、法人を棚から選ぶかのごとく購入できることから名付けられています。
シェルフカンパニーは基本的にはモデル定款を適用しており、購入後は新株主の意図に基づき、社名の変更、住所の変更、取締役、会社秘書役の変更等を行います。
香港での会社設立の全てのステップが上記になります。ビジネスが収益を生み出すにはもちろん長い時間が必要になるわけですが、実際に会社設立にも2ヶ月程度の時間がかかることになります。シェルフカンパニーの活用などで迅速に事業をスタートさせるなど、ビジネス都市香港らしい合理的な手段もあります。もし具体的に興味を持ったり、疑問点、住所の名義貸しに対応している会計事務所を知りたいなどがあればお問い合わせ頂ければできる範囲で個別にご回答しますね!
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