書いている私は香港弁護士 (not practicing)として企業の香港進出を支援しています。香港のノミニーは香港での法人設立の際によく質問を受ける点でもあります。
https://startuphk.jp/hongkong-company-setup/
また、2018年の改訂会社法で、ノミニーの効果が限定的になるなど注意した方が良い点もあります。いつも、会社設立や法務に関わっていない方でもなるべくわかりやすい様にご説明します。
香港で一般的なノミニー(Nominee)制度
法的には、信託 (Trust)を活用することで、実質的株主が委託者・受益者として決定権を維持しつつ、Nominee Service Provider(以下「Nominee」)を受託者として選任することで、株主として代理登録・権利行使を行う制度を「Nominee Shareholder」 と呼びます。同様に、取締役の権利・義務に関して、実質的株主がNominee を選任し、取締役の代理登録・権利行使・義務履行を行う制度を「Nominee Director」と呼びます。
下図の通り、ノミニー(Nominee)が同時にNominee ShareholderとNominee Directorとして選任されるのが一般的です。
信託契約により条件設定しますが、実質的株主がNomineeの解任権を保持するのが一般的です。
香港、シンガポール、British Virgin Island(BVI)を含む旧英国連邦の法律(Common Law)を継受する諸国にて、資産運用目的の会社(いわゆる、オフショア法人<Off Shore Company>) にて用いられる伝統的な運用手法です。「名義貸し」ではなく、香港現行法での制約があるものの(後述)、設立・運用自体は合法的な手法です。
ノミニー(Nominee)制度活用のメリット
活用方法として以下が挙げられます。
- 実質的株主のプライバシーを限定的に保護(後述)(現行法開示義務は後述)
- 香港法上の取締役香港居住者要件の充足(実質的な取締役が香港外に居住する場合)
- ノミニー(Nominee)へサイン権限委譲・事務委託をすることで香港法の要件の事務を軽減
ノミニー設定のための必要書類
ノミニーを設定するのための必要書類は以下になります。
Declaration of Trust | 最終的決定権・実質的(経済的)受益権は受益者が保持するが、Nomineeが登録上の株主となることを明確にします。 |
Power of Attorney | 実質的株主が受託者が代理であることを明確にします。 |
Nominee Director Declaration | Nominee Director は実質的株主の指示に従い職務を遂行することを宣誓します。 |
株式譲渡証 | Nominee Shareholderをいつでも解任可能にするため、実質的株主がNominee調印済み・日付はブランクの株式譲渡証を保持します。 |
取締役辞任届 | Nominee Director をいつでも解任可能にするため、実質的株主がNominee調印済み・日付ブランクの取締役の辞任届を保持します。 |
ノミニー(Nominee)制度関連法令の整理と注意点
2018年3月施行の2018年改訂会社法(香港法第622章)によると、会社として間接的でも(即ち、信託を介しても)株式保有が25%超の実質的支配者 (Significant Controller)を特定する努力義務が定められ、氏名・コンタクト先など情報の開示・登録が義務付けられました。
そのため、ノミニー(Nominee)制度による実質的株主のプライバシー保護が限定的(25%以下の株式保有に限定)にされました。
また、銀行法(香港法第155章)と資金洗浄・テロ資金供与対策法(香港法第615章)により、香港の銀行にて法人口座開設の際、全Director・実質的株主の情報及びNominee Directorとの関係についての開示が義務付けられています。よって、法人口座開設には注意が必要です。
最後に、公司註冊處2018年3月発行のGuideline of Trust Company Service Providers(TCSP)によると ノミニー(Nominee)業務はTCSP免許制度と一部となった為、実質的株主の情報が事実上の当局の監視下になりました。
ノミニー制度のメリットや実務について上記記事に関する、ご質問などございましたら、気軽にお問い合わせ頂ければと思います。
著者
小原 淳(Jun Obara)
Managing Partner, Visence Professional Services Limited
enquiry@visence-japan.com
1978年静岡県三島市に生まれ、14歳で渡米。以後中学から大学院卒業まで米国で過ごす。Juris Doctor (法職博士号)と米国NY州弁護士資格を保持。
2007年日本に帰国後は、外資系証券会社及び日系銀行にて、コンプライアンスオフィサー・社内弁護士として金融法務及びストラクチャードファイナンス業務を経験する。
2012年に香港に移住後は、国際法律事務所において、日本企業の企業買収を含む、香港・中国・アジア諸国進出に関する助言や証券・投資顧問会社設立のサポートに携わる。 紛争解決の分野においても、欧州自動車メーカー及び関連日本子会社が関与する日本・アジア地区に て発生した製造物責任・リコール問題の紛争解決において尽力し、また日本企業が関与する米国訴訟・調査・捜査におけるeDiscovery対応の経験もある。
2017年、ビジネスの多様性に柔軟に対応するためコンサルティング会社Visence Professional Services Limitedを設立し、法律知識を活かし、香港富裕層の対日イ ンバウンド投資の総合ビジネスサポートをする傍ら (http://www.visence-japan.com/)、日系企業の香港・中国・アジア進出のサポートにも全力を注いでいる。
米国NY州弁護士、香港弁護士 (not practicing)
Juris Doctor
日証協外務員・内部管理責任者資格
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