香港 雇用契約書、就業規則および「誓約書」の有効性について

香港で就業する際、雇用契約書(「Employment Agreement」)締結するのが一般的です。

雇用契約書の締結がない場合、Employment Ordinance (雇用法)が適用されることとなりますが、雇用契約書の一部分の内容について違法である場合、もしくは制定が不十分である場合において、雇用法の該当法令が適用されるのが一般的です。しかし、理論上は、英国法(Common Law コモンロー)上の口頭証拠排除原則(Parole Evidence Rule)により、雇用契約書の内容に矛盾や否定する場合において、雇用法が適用されない場合がありますのでご注意ください。

それでは、企業として就業規則(Employment Handbook)の作成義務はあるのでしょうか? 特定の業種(例 金融業)において、規制当局により従業員規則は必須になりますが、一般的な香港企業において、就業規則の制定がない場合もありますので、法的要件ではありません。 

法的には、従業員規則は、雇用契約書に記載されることで、参照され組み込まれます(Incorporation by Reference )ので、(適当な手当が施されていれば)雇用契約書と就業規則は一体となりますので、雇用契約を締結する際、就業規則を確認することは合理的なリクエストと考えます。

また、雇用契約書と従業員規則が法的に連動しているのことで、雇用契約内容が従業員に通知のみ(従業員が合意したとみなされ)で自動更新(「自動更新条項」)が制定されている場合がありますが、個人情報保護法上の承諾等について、雇用契約書に記載されるべき(従業員規則の自動更新条項では不十分な)内容があります。

それでは、いわゆる「誓約書」はどのような法的位置づけになるのでしょうか? 雇用契約書もしくは就業規則において、例えば、職務追行上発生した情報保護をするための守秘義務条項がなかった場合、それを補足する為、従業員に一方的に誓約書にサイン(以後、企業側がAcknowledge)するケースが散見されます。

このようなケースは、上記自動更新条項(若しくは、コモンロー上の暗示的な守秘義務 (Common Law Implied Duty of Confidential Obligation))が非該当であると仮定しますが、香港法上は無効という扱いになる可能性が高いです。コモンローにおいて、有効的な契約書を作成するにはある意味「双務契約」であり、約因(Consideration)もしくは対価の交換が必要になります。既に、雇用上の取り決めについて、雇用契約書、就業規則並びに雇用法があり、給与・対価が支払われていますので、約因の交換は既に行われています(Past Consideration 「過去の約因」といいます)。既存契約に、守秘義務を追加するのであれば、別途約因・対価の交換を行う必要がありますので、雇用契約を修正する必要がありますが、Nominal Consideration「名義上の約因」として香港$1を交換する手当は有効です。また、一方的に従業員がサインする「誓約書」(雇用主がサインしない場合)(片務契約)は、コモンロー上契約書としての性質は低く、無効となる可能性が高くなります。 

上記は技術的な問題が多いため、詳細について、専門家にお問い合わせ頂ければ幸いです。