月額労務顧問サービス

新型コロナウイルスなど香港経済の減速を受けて、最近特に多いのが労務・人事に関するご相談です。雇用条件の変更、採用・解雇など経営環境が変わる中で、前例のない判断が求められる経営幹部の方も増えています。

香港雇用関係 紛争フロー

刑事・公法違反

雇用主により以下の違反がある場合、政府機関にて調査対象され(訴追され)刑事罰の対象となり、従業員も民事訴訟提起できます。

  • 個人情報保護法違反 (Personal Information (Privacy) Ordinance) =>  Privacy Commissioner
  • 賃金未払い並びに労務安全管理に関する問題 =>  労働局
  • ビザなし雇用 (従業員は連行・国外追放になります) =>  警察・移民局

月額労務顧問サービスでは、毎月定額の料金をお支払いいただくことで、香港の労務状況について情報をご提供するほか、日本人の香港法弁護士にご相談いただける機会となります。

・香港の人事労務関連ニュースを週1回配信します。

・人事労務問題のご相談に関して、メール及び電話で対応致します。

・人事労務に関わる契約書のレビューを致します。

月2,000香港ドル(1年単位でのご契約となります。)

以下は別途オプションで対応します。

・労働問題が発生し、仲裁や裁判が起きた場合も、日本人の香港法弁護士がスムーズに対応します。

・人事労務に関わる契約書の作成業務。

お問い合わせは以下からお願い申し上げます。


    香港ノミニー(Nominee) 制度のまとめ

    香港ノミニー制度を活用すると、低コストで起業が可能になり、将来の節税対策や将来の資産運用に備えることができます。


    香港をビジネスの拠点とする利点をまとめます。
    (1)香港法人( Private Limited Company) の設立コストは日本での株式会社設立より安く、法人登記料は香港$2,000(3万円程度)と委託手数料を含めると総額15万円程。

    (2)資本金は香港1ドルから可能で、資本額は自己申告(口座振り込み必要なし)。

    (3)香港外収入の法人税課税は0%。香港域内収益は、法人税16.5%(所得$2,000,000以下は8.25%)。消費税、付加価値税、相続税なし。

    (4)英国法(Common Law) を起訴とする国際金融都市である香港にい、Fiduciary Business (フィヂューシャリー ・ ビジネス) 所謂「受託ビジネス」が盛んで、ノミニーの法整備が整っていて、信用にかかわるため弁護士法人以外の業者にも2018年よりTCSPライセンス制度。

    ノミニーの法的性質について、信託 (Trust)を活用することで、実質的株主が委託者・受益者として決定権を維持しつつ、Nominee Service Provider(以下「Nominee」)を受託者として選任することで、株主として代理登録・権利行使を行う制度を「Nominee Shareholder」 と呼びます。同様に、取締役の権利・義務に関して、実質的株主がNominee を選任し、取締役の代理登録・権利行使・義務履行を行う制度を「Nominee Director」と呼びます。

    詳細はこちらをご覧ください。https://startuphk.jp/nominee/

    香港新型コロナ 労務対策最新情報(2020年3月20日現在)

    2020年1月末の政府の非常事態宣言以降、香港では、厳重な感染拡大措置・入国管理が行われました。2000年初頭のSARSの教訓をいかし、感染封込め措置は徹底的に行われ、その結果、他のアジア主要都市と比較し、感染者数は低水準で抑制されています。

    今週になり、欧米諸国渡航者の帰国による「逆輸入」の影響で、若干の上昇傾向にありますが、感染者数は256名、死者4名、退院者数98名 となっています。
    最新情報:  https://chp-dashboard.geodata.gov.hk/covid-19/en.html

    新型コロナによる香港での労務環境も変化しつつありますので、労務法務の整理をします。

    1.外出禁止要請

    香港政府には、現段階では「外出禁止措置」を強制する法的権限はないため、あくまでも、不要不急の外出や、大人数での集会・食事は避けることを、政府からのお願いする「要請措置」に留めています。

    2.従業員は出勤するべき?
    2020年1月末に政府の発表により、不要不急の外出を控え、可能な限りテレワークをす るよう要請がありました。公務員に対しては、自宅待機命令が出されました。

    中国政府の権限とは対照的に、現段階では香港政府には、民間企業の活動を制限することはできないため、(繰り返しになりますが)あくまでも「要請」という位置づけですので、従業員を出勤するか否かは個々の企業による判断に委ねられます。公務員は3月初旬より徐々に職場に戻るようになっています。

    就業規則においてテレワークや自宅待機の定めがない場合において、後述の整理解雇・無給休暇の場合を除き、給与は発生すると考えます。

    テレワークをする際、企業の機密情報が漏洩リスクにさらされます。この際、就業規則を見直す必要があるかもしれません。

    3.マスクを着用義務化?

    香港政府には、公務員以外の香港居住に対して、外出時マスク着用を義務化する権限は現段階ではないため、あくまでも、マスク着用「要請」になりますが、殆どの香港居民は感染リスクについて敏感であるため、外出する際マスクを着用しています。

    それでは、職場で従業員にマスク着用を義務化する根拠はあるのでしょうか?香港雇用法(Employment Ordinance)において、直接的にマスク着用の義務はありませんが、雇用主として従業員の安全を守る義務があります。従いまして、従業員に感染した場合や、会社が入るビルにおいて感染者があった場合等の非常事態において(以下、「職場での非常事態」)、安全確保のため、マスク着用・帰宅することは法的には可能と考えます。

    他にも、企業がはいるビルの管理規則 (Deed of Mutual Covenant (DMC))が根拠となりえます。DMCにより、管理権限並びに安全管理等はビル管理会社に委ねられているため、ビル管理会社の判断で、入館する際のマスク着用・検温を義務づけることが法的に可能になります。殆どの商業ビルでは、マスク着用・検温が義務付けられています。

    マスク着用を義務化すると、従業員から雇用主に対して、マスク供給・マスク費用建て替えの要請があると考えます。これは妥当な要請と考えますが、市中のマスク事情を勘案し、マスク提供を義務化するのは雇用主に著しい負荷がかかります。現行の香港雇用法上では、マスクの提供義務はありませんが、上記の「職場での非常事態」に該当する場合には、提供が必要と考えます。現在香港でのマスク需要は安定していますが、多くの富裕層や慈善団体から、マスクが寄付されるケースがあります。

    この機会に、就業規則をレビューし、マスク義務を明文化するべきと考えます。 例えば、検温について個人情報保護法の注意が必要です。37.5度の体温があるかいなかを確認するだけであるなら特段問題ありませんが、個々の従業員の体温データは「個人情報」となりえますので、検温状態が記帳される場合、厳密には個人情報保護法の観点から同意書が必要になります。

    4.整理解雇、無給休暇、休業補償、

    急激に景気が悪化するなかで、整理解雇をする雇用主も多くなっております。職金等の詳細は、こちらご覧ください。https://startuphk.jp/introductory/

    雇用主から無給休暇 (Unpaid Leave)の要請がある場合があります。当然ながら、新型コロナに感染した場合には「病欠」扱いになり(この際、雇用が終了されると、雇用主は刑事罰を負います。詳細はこちらまで、https://startuphk.jp/termination/)、有給休暇が残っていれば、有給消化することになります。

    整理解雇・病欠以外の場合において、雇用法上、無給休暇の扱いについて規定がないため、個々の従業員がその要請に承諾すれば、雇用法上有効になります。しかし、無給休暇を強制されその後退職になった場合には、Constructive Dismissal (退職強要)の問題が発生する可能性があります。 詳細はこちらをご覧ください。https://startuphk.jp/constructive-dismissal/

    香港法上、休業補償はありませんが、緊急措置として、諸条件に充足する香港の永住居民に対して、2020年5月頃現金(香港$10,000)がFPS(Free Payment System)により支給される予定です。

    香港・オフショア 株券 Bearer Shares (無記名)株券 と Nominee 制度

    現行法上、香港法人の株主はどのように証明されるのでしょうか? 

    形式的・事務的に、「株券」(Share Certificate)を発行するのが慣行ですが、株券の法的意義は薄く、現行法上、株主資格を証明する書類は以下になります。

    (1)Share Application(株式割当申請書)もしくは 譲渡証(既発株式の譲受)、

    (2)議事録・法定帳簿(Statutory Book)

    (3)登記されるNNC1(法人設立申請書) 及びNAR1(年次報告書)。

    香港法上では、株券自体に意義がないため、株券譲渡は法律行為ではありません。

    しかし、国によっては、株券自体を保有することに意義があり、即ち株券を無記名株券(Bearer Share)となり、株券譲渡にて株式譲渡が可能になります。所謂、オフショアといわれる国々で、無記名株券の発行が可能ですですが、近年、各国において、資金洗浄防止対策により、無記名株券の発行は認められるものの、規制が厳しくなってきました。

    例えば、British Virgin Island (BVI)法人において、定款にて無記名株券を設定可能ですが、株券の保管場所が固定(Immobilized)され、当局に株式の詳細(保有者、株式数、等)を通知する必要があります。

    株主の秘匿性を高めるには、ノミニー株主を活用することをお勧めします。

    香港口座開設 共通報告基準 CRSについて

    CRS(Common Reporting Standard もしくは 共通報告基準)は、租税回避防止を目的とし、条約により、批准国の金融機関が保有する情報を必要に応じて交換する制度で、香港・日本を含む100以上の国・地域が批准しています。2014年に宣言があり、その後各国において制定・施行されています。米国の税法である外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act もしくは 「FATCA」は、米国の納税義務のある方が、米国以外の金融機関の口座を利用して米国の税金を逃れることを防止するために制定されましたが、CRSはFATCAの国際版と認識している専門家もいます。 

    金融機関に課される法律ですが、香港法人の口座開設の際、CRSに関する同意書にはサインをもとめられます。同意がない場合には口座開設はできなくなります。CRSではどのような情報が開示されるのでしょうか? 各国の合意により若干の違いはありますが、以下の情報が必要に開示されます。

    1. 口座名義、住所、納税番号、生年月日、出生地
    2. 口座番号
    3. 該当する金融機関名と銀行番号
    4. 口座残高(年次)並びに閉鎖の有無
    5. 付加価値、配当、利息等の情報(口座使途により)

    共有される情報は税務関連の情報ですので、同意書にサインしたからといって、口座開設の全情報が開示されるわけではありません。また、近年個人情報保護法や銀行関連レギュレーションは厳しくなっておりますので、CRSによる情報開示は限定的と考えます。

    今さら聞けない 香港法人基本情報

    1.香港法人の種類

    法人登記所(Companies Registry)に登記できる法人は、以下4種類です。

    ① Private company limited by shares  (非公開有限責任会社)

    ② Public company limited by shares(香港証券取引所上場企業)

    ③ Private Company limited by guarantee (非公開有限責任保証会社)

    ④ Open Ended Fund Company (オープンエンド・ファンド投資会社)


    本書では、香港進出で活用される①について説明します。香港法上、個人事業(Sole Proprietor)、無限責任組合(Partnership)・有限責任組合(Limited Partnership)はCompany Registry に登記できないものの、設立は可能です。

    2.会社名 (Company Name)

    登記済みの会社名でなければ、英語、中国語(繁体字/ Traditional Chinese)もしくは両言語で登記が可能です(英語と中国名は同義の必要なし)。会社名の末に、英語の場合は、「Limited 」、中国語の場合は「有限公司」が付きます。

    登記されているか否かは、以下のHPより閲覧が可能ですが、法的に成約があります。

    https://www.icris.cr.gov.hk/csci/login_i.do?loginType=iguest&CHKBOX_01=false&OPT_01=1&OPT_02=0&OPT_03=0&OPT_04=0&OPT_05=0&OPT_06=0&OPT_07=0&OPT_08=0&OPT_09=0&username=iguest

    3.登録住所 (Registered Address

    香港法上、法人の登録住所は香港域内に存在する必要があります。


    4.株主 (Member)

    香港法上、株主情報(氏名・住所)の開示が必須で、1名から50名まで株主となれます。個人(18歳以上、香港居民である必要なし)もしくは法人(香港法人・外国法人)が株主となれます。

    株主追加には、第三者割当増資(Allotment)か発行済み株式の一部譲渡 (Transfer)です。第三者割当増資もしくは譲渡後、取締役会にて株主として迎え入れる旨機関決定(議事録調印)し、以後、会社秘書が法定帳簿に記帳します。

    当局対応として、第三者割当増資の場合、所定のNSC1にて法人登記所に通知し、株式譲渡する場合には、譲渡証の一式 (Instrument of Transfer及びBought Sold Notes)に対して印紙を取得する為税務当局(Inland Revenue)の承認が必要です


    5.取締役・役員 (Director)

    最低1名以上(以後、無制限選任可能)、個人(18歳以上)・法人(香港法人・外国法人)、どちらでも選任可能で、個人の場合は香港居民(ビザ)の必要はありません。氏名の変更、住所変更(引越し)、パスポート更新などがあった場合、変更後14日以内に所定のND2Bにて登記所に通知します(登記費用無料、即日登記)。

    取締役の自主的な交代について、辞任届・選任届をそれぞれ選任取締役・新任取締役が行い、取締役会に機関決定され(議事録調印)、その旨所定のND2Aにて 登記所通知します(登記費用無料、即日登記)。株主は年次総会のタイミングで事後承認するのが一般的です。取締役の強制的に退任される場合には、専門家にご相談ください。

    6.秘書役 (Company Secretary)

    香港居民もしくはTCSP ライセンス保持業者(法人)が選任されるのが必須で、会社法(Companies Ordinance) 上の届出書(年次報告書)の作成・提出、法令要件のモニタリング、グリーンボックス・法定帳簿・議事録等の保管が主な業務です。会社秘書の交代には、辞任届・選任届・議事録に調印し、その旨所定のND2Aにて 登記所通知します(登記費用無料、即日登記)。

    7.資本 (Capital

    1株あたり1香港ドル以上で上限はありません。日本での法人設立とは対照的に、実際の銀行口座払込(「見せ金」)の必要はなく、現金だけでなく、現物出資も可能です。また、過少資本であっても、特段銀行口座開設に影響はありません。香港ドル以外の通貨(例えば 日本円)でも登記が可能です。

    尚、2014年の会社法改正で、授権資本(Authorized Capital )という概念(則ち、発行済み株式でも、会社が譲渡されていない株式を保有する)がなくなり、「発行済み株式=譲渡株式」という整理がなされました。


    増資(Capital Increase)について、以下が要件です。

    ① 割当・増資申込書 (Application for Shares)
    ② NSC1 (Return of Allotment) 登記所に通知(登記費用無料、即日登記)。
    ③ 取締役会にて機関決定(議事録調印)
    ④ 会社秘書にて法定帳簿に記帳

    減資 (Capital Reduction)について、従前は裁判所承認が必須でしたが、2014年法改正により、株主総会、所定の登記書類の提出、官報公示等の手続きを経て、減資が可能になりました。詳細について、専門家にご相談ください。

    8.設立を証明する書類

    ① 設立申請書(NNC1)(初年度)
    ② 年次報告書(NAR1)(2年目以降)
    ③ 設立証明書(Certificate of Incorporation)
    ④ 事業証明書(Business Registration )(税務局発行)
    ⑤ 定款 (Articles of Association)
    (2014年改正の旧会社法ではMemorandum of Association)

    9.会計監査 (Accounting Audit) ・年次報告書 (Annual Return)・年次総会 (Annual Meeting)

    香港法人は、年次で、香港CPA資格のある会計事務所に、会計監査を行ったもらい、監査報告書を発行してもらいます。

    手順として、会計年度が終わった翌月もしくは翌々月(3月末締めなら、4月か5月)に税務局から税金申告書(Tax Return)が登録住所に送られてきます。発行後1カ月以内(場合によっては、数か月延長は可能です)にTax Return に財務状況と税金申告額を記入・提出しますが、2万香港ドル以上場合のみ、監査報告書添付でTax Return を提出する必要します(金額が満たさない場合は、監査報告書の添付は必要ありませんが、保管は必須です)。 会計関連書類(監査報告書を含め)の保管期間は7年です。

    会計監査のタイミングで、年次総会を行いますが、スタータップ企業の場合、監査法人が用意する議事録に株主が調印することで代用になります。同じタイミングで、年次報告書(NAR1)を法人登記所に提出します。

    上記に関わらず(NAR1提出義務以外において)、新設会社の場合は、(年次ではなく)設立後18カ月後にTax Return が送らてきますので、以後、監査、Tax Return 提出・年次総会を行いことができます。

    9.閉鎖 

    債務が多数ある場合、任意清算と強制清算という方法がありますが、1年以上かかり、清算人を選任する必要があります。

    債務が存在しない状態であれば、抹消手続き(Deregistration)により、比較的短時間で可能です。

    また、一旦、会社を休眠 (Dormant Company) する方法もあります。

    ご不明な点についてはどうぞご相談ください。

    香港 雇用契約書、就業規則および「誓約書」の有効性について

    香港で就業する際、雇用契約書(「Employment Agreement」)締結するのが一般的です。

    雇用契約書の締結がない場合、Employment Ordinance (雇用法)が適用されることとなりますが、雇用契約書の一部分の内容について違法である場合、もしくは制定が不十分である場合において、雇用法の該当法令が適用されるのが一般的です。しかし、理論上は、英国法(Common Law コモンロー)上の口頭証拠排除原則(Parole Evidence Rule)により、雇用契約書の内容に矛盾や否定する場合において、雇用法が適用されない場合がありますのでご注意ください。

    それでは、企業として就業規則(Employment Handbook)の作成義務はあるのでしょうか? 特定の業種(例 金融業)において、規制当局により従業員規則は必須になりますが、一般的な香港企業において、就業規則の制定がない場合もありますので、法的要件ではありません。 

    法的には、従業員規則は、雇用契約書に記載されることで、参照され組み込まれます(Incorporation by Reference )ので、(適当な手当が施されていれば)雇用契約書と就業規則は一体となりますので、雇用契約を締結する際、就業規則を確認することは合理的なリクエストと考えます。

    また、雇用契約書と従業員規則が法的に連動しているのことで、雇用契約内容が従業員に通知のみ(従業員が合意したとみなされ)で自動更新(「自動更新条項」)が制定されている場合がありますが、個人情報保護法上の承諾等について、雇用契約書に記載されるべき(従業員規則の自動更新条項では不十分な)内容があります。

    それでは、いわゆる「誓約書」はどのような法的位置づけになるのでしょうか? 雇用契約書もしくは就業規則において、例えば、職務追行上発生した情報保護をするための守秘義務条項がなかった場合、それを補足する為、従業員に一方的に誓約書にサイン(以後、企業側がAcknowledge)するケースが散見されます。

    このようなケースは、上記自動更新条項(若しくは、コモンロー上の暗示的な守秘義務 (Common Law Implied Duty of Confidential Obligation))が非該当であると仮定しますが、香港法上は無効という扱いになる可能性が高いです。コモンローにおいて、有効的な契約書を作成するにはある意味「双務契約」であり、約因(Consideration)もしくは対価の交換が必要になります。既に、雇用上の取り決めについて、雇用契約書、就業規則並びに雇用法があり、給与・対価が支払われていますので、約因の交換は既に行われています(Past Consideration 「過去の約因」といいます)。既存契約に、守秘義務を追加するのであれば、別途約因・対価の交換を行う必要がありますので、雇用契約を修正する必要がありますが、Nominal Consideration「名義上の約因」として香港$1を交換する手当は有効です。また、一方的に従業員がサインする「誓約書」(雇用主がサインしない場合)(片務契約)は、コモンロー上契約書としての性質は低く、無効となる可能性が高くなります。 

    上記は技術的な問題が多いため、詳細について、専門家にお問い合わせ頂ければ幸いです。

    香港雇用契約における雇用終了後の協業避止、勧誘禁止条項について

    香港の雇用契約において、雇用終了後に効力発生し(元)従業員の行動を制限する、競業避止条項(Non-Competition Clause)、勧誘禁止条項(Non-Solicitation Clause)や 接触禁止禁止条項 (Contact Prohibition Clause) が記載されている場合があります。 これらを、Restrictive Covenants とかRestraint Clauseと一般的に呼びます (以下、「制限条項」)。

    契約書のドラフティングにより内容な左右されますが、一般的元従業員に対して、退職後に以下の効力が発生します。

    ① 競業避止条項は、競業企業に転職することの制限。

    ② 勧誘禁止条項は、退職した企業の顧客に対して勧誘を禁止。

    ③ 接触禁止条項は、退職した企業の従業員やサプライヤーにコンタクトを禁止する。

    香港は英国の植民地として英国法(Common Law)を継受しましたが、大昔の英国において、「雇用の自由」を著しく禁止・制限する条項は、公序良俗に反する(against the public interest )とし、無効とするのが原則でした。以後、経済発展を遂げていく上で、裁判所も、企業側の利益を尊重するようになり、総合的状況を勘案し、制限を認めるような傾向になりました。

    契約書において、制限条項の内容に左右されるものの、現香港法において、制限条項の合法性は、以下2点です。

    ① 条項が全体的に勘案して、企業側の正当な利益を防御する(to protect the legitimate interest) 上で、合理的(Reasonable)であること。

    ② 条項・記載が明白 (explicit) で、誤解の余地がない(unambiguous) であること。言い換えれば、黙示条項(Implied Terms)が除外されますが、 契約書ドラフティングの問題ですので、本書では割愛します。詳細について専門家にお問い合わせください。

    一般的に、以下3点に当てはまると「正当な利益」と認定される可能性が高いです。

    (1)企業として事業継続性

    (2)守秘義務並びに営業秘密の有無

    (3)顧客やサプライヤーとのコンタクト(Goodwill 営業権)

    上記、「正当な利益」とみなされれば、雇用主として「合理的」な範囲内において制限をすることになりますが、以下の論点が「合理的」判断の対象になります。

    (1)期間的な制限
    特に、競業避止条項の場合、制限期間が3か月から6か月が合理的な期間となります。

    (2)地理的な制限

    全世界を制限する事は、おそらく無効になります。香港域内においても、香港全土を制限区域になると無効となる傾向にあります。

    最後に、制限条項が有効になるには、就業規則及び契約書が有効である必要があります。詳細は、香港 雇用契約書、就業規則および「誓約書」の有効性についてをご覧ください。 

    上記は技術的な問題が多いため、詳細について、専門家にお問い合わせ頂ければ幸いです。

    香港転職時 レファレンス・レター(Reference Letter) の扱い

    従業員が香港企業を退職する際、就業最終の日に、上司がレファレンス・レター(紹介状・推薦状)を従業員に渡すのが一般的です。

    組織形態によりますが、(サイン権限があれば)上司・人事担当が、該当する従業員について以下をレファレンスレターにて確認します。

    ①就業期間

    ②ポジション

    ③仕事内容

    ④就業態度

    レファレンス・レターは非常に重要な書類で、転職の際、原本提示を求める企業は多く、身元確認の一環として、元上司・人事担当者に電話して確認する場合もあり、提示がない場合には、懲戒解雇されたと勘違いされる場合もありますので注意が必要です。ある意味、卒業証書や資格証明書のような位置づけです。

    その重要性から、例えば、雇用主が従業員を辞職させたい場合に、「辞表提出」か「レファレンス・レターが発行されない」か、2パターンを提示して、辞職に追い込むケースがあります。「辞職強要」(Constructive Dismissal)の説明について、こちらをご覧ください。

    香港法上の整理になりますが、懲戒解雇(Summary Dismissal) された否かに関係せず、雇用主にはレファレンス・レターを発行する義務はありません。

    レファレンス・レター発行の義務はないものの、発行することになると、雇用主には法的リスク・義務が伴います。事実と反する記載がある場合には、名誉棄損 (Defamation / Libel ) リスクが生じ、名誉棄損行為があれば、過失責任を追及される可能性があります。元従業員について、真実、公平及び正確な記述をする必要があります。

    また、懲戒解雇された従業員について、レファレンス・レターを作成する場合、名誉棄損リスクを軽減する必要があります。詳細は私たちにご相談ください。